所蔵品紹介コーナー


このページでは、プッペンハウスヨシノ発行の機関誌プッペンハウスニュース (休刊中)の毎号表紙で連載されていた所蔵品紹介を掲載します。


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「珍しいべッドルーム」とはドールスハウスには珍しい命名であるが、これは 入手したときのオークションのカタログにあったもの。鑑定家も見慣れぬタイプ と怪訝におもったのだろう。
 中央左手にゆりかご、両脇に小さな、しかし背の高い(介護のしやすいよう) べッドが見えることなどからわかるようにこの部屋は産室である。それ自体は 珍しいものではない。「オランダのドールスハウスの多くに、又、イギリスのも のにも幾うかあり」と、 L.von Wilckens著のDas Puppenhaus 1978年の本にある 。同時に「極めて重要な意義をもつ部屋として扱われていた。それはフフンスの 枢機卿リシュリューがさる公爵夫人に産室をプレゼントしたことなどからも伺え る」ともある。しかしこの本の写真や現在シュトラスブルグやフランクフルトの 博物館で見られる産室の家具は陶器や木で作られていて、公爵夫人に相応しいと も思えない。それらに比較すればこの「珍しいべッドルーム」は華麗である。そ うは見えないとお叱りをうけるかも知れないが、なにしろ三百年も昔の話。家具 のビーズ、人形のドレスやべッドのシルクが当時どんな輝きを放っていたかは想 像していただくしかない。
 さて、他の産室との違いはまだあって、他方はべッドは一つだけ、片側には 戸棚や陶製ストーブなどが据えてある。また柱時計や楽器などを置いた部屋もあ る。つまり一般的な産室には生活臭があるのにこの部屋にはない。間に合わせの 産室でなく、最初からそれを目的に作られた部屋なのである。
 以上のことから推察するに「枢機卿から公爵夫人に送られた」産室こそこの 部屋ではあるまいか、と、まあそこまで断定するつもりはない。しかし同様のも のであったのではないか。そしてそれを模して民衆が現実的に作ったのが今一般 的に伝えられる産室ではないだろうか。そう考えると、この色彩の失われたドー ルスハウスを今後とも、せめて形だけは末長く残していかなければと思う。
※なお額縁は後世(十九世紀末頃か?)に付けられたもの。

プッペンハウス ニュース 1994年9月 8号

「珍しいベッドルーム」
ドイツ 1690〜1720年頃
高30cm 幅43cm 奥行25cm

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