このページでは、プッペンハウスヨシノ発行の機関誌プッペンハウスニュース
(休刊中)の毎号表紙で連載されていた所蔵品紹介を掲載します。
| リバプールでクリスマスを過ごした幼い女の子は母親と共に長い帰郷の旅の
途にあった。狭い列車内の退屈な時間を救うのは移り変わる風景。そして空想。
思いはクリスマス・プレゼントの包みの中身。それは大きなドールスハウス。作
られてから百年くらいのもので、今までにオーナーが三人代わったという。「で
も、とてもきれいでしょう」備品をふくめ、百年前の状態がほぼ守られていると
、プレゼントしてくれた伯母が話していた。 6才の少女にとってはむしろ迷惑な
話で、どうやら他のおもちゃみたいに遊ぶことができないとわかってちょっとが
っかりもした。しかしアーチつきの窓やバルコニーなど、ダブリンのジョージア
ン風の家をモデルにしたという外観を思い出すたびに、そんなことは忘れて興奮
してしまった。そして列車を乗り換えるたびに、その大きな包みがポーターの手
押し車の上でゆれるのを、彼女は四代目の小さなオーナーとしてはらはらして見
守っていた。 80年前の光景を、老女は昨日のことのように覚えている。 長じて彼女は、この家の美しさを保つために最小限の手を加えている。 70年 前に書斎(中段左)の壁紙を張り替えたのを皮切りに、アームチェアの生地やカー テンも替えている。しかし15才のときドイツで買ったドレスデン窯のオウムの置 物(中段右・暖炉の上)、伯母にもらったべネツィアングラスのシャンデリア(書 斎天井)など、加えられたものはわずかで、いかに元の状態を維持するのに注意 を払っているかうかがえる。きっと彼女はこの家に、遠きヴィクトリア時代のク リスマスの情景を見ているのだろう。 今回の解説は英国の古い雑誌にあったこのハウスの記事から構成した。プレゼ ントされた時に既に百年たっていたとすると計算が合わず、せいぜい60年である が、おそらく彼女の伯母が「古くて大切なもの」だということを強調するために そんな数字を出したものと思われる。 プッペンハウス ニュース 1995年1月 10号 |
![]() アイルランド 1840年 高125cm 幅115cm 奥行48.5cm |